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瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』読書レビュー。小学校高学年にも読んで欲しい

「そう。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。(中略)明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?未来が倍になるなら絶対にしたいだろう。それってどこでもドア以来の発明だよな。しかも、ドラえもんは漫画で優子ちゃんは現実にいる」(本文より引用)

どこでもドア!あなたも一度は欲しいと思ったことがあるのではないでしょうか?そんな、どこでもドア以来の発明品、明日を2つにできるモノ?そんなすごいものが現れたら今やSNSからネットニュースから、日本中が震撼すること間違いなしですよね。でも、この本を読んだ人はみんな、その大発明をずっと前から知っています。その恩恵を確かに受けて自分が生きてきたのですから。そして私の場合は、明日がなんと、今は3つもあります。
今回はその発明にまつわるお話を描いた、瀬尾まいこさん著『そして、バトンは渡された』をご紹介します。

最後まで読んだら最初に戻れ

読んでいてとても愛しくなるのが、この本の中で最初と最後だけ一人称の座を与えられる「森宮さん」。物語はこの間に挟まれた”娘”の主観がメインになっていますが、最後まで読んだ後に一番最初のプロローグを再度読むと、心臓がきゅううううっとなります。娘の人生と見せかけておきながら、これは、最後まで森宮さんの物語だ。絶対、最初に戻ることを覚えておいてね!そのまま2周目に行っても良し!です。

東大卒のエリートを探せ

森宮さんは”娘”の前に現れた3人目の”お父さん”。あらすじはここでは省きますが、東大卒のエリートサラリーマンらしいです。もう、東大生をおちょくっているとしか思えない人物像で笑えます。この肩書きを何度も登場させるくせに、森宮さんの賢いシーンが無い。どこにも無い。強いてひとつ挙げるなら、探偵…というかむしろストーカーすら匂わせるシーンがあります。というのは冗談で(本当にあるけど)、私が見落としているだけかもしれないので、よかったらあなたも森宮さんのエリートっぽさを探し出してみてください。

本当の家族を知れ

「何がいいのか、どうしたいのか、考えたらおかしくなりそうだった。私の家族ってなんなのだろう。そんなことに目を向けたら、自分の中の何かが壊れてしまいそうだった。」(本文より引用)

ここぞという場面でしか描写されない、”娘”である優子の心情の揺れ。この一文が、読んでいて辛い。なのに浸る間もなく、すっと場面転換されます。何なんでしょう、こういう言い方は良くないかもしれませんが、著者のテクニックなんでしょうか。感動モノに乗せられたくなくてつい反抗してみたくなる読者心の扱いはお手のもの、と言われているようです。(そして読む)

実際、家族の形は家庭によって様々ですよね。自分にとっても、本当の家族とは何なのか考えさせられます。そう、”本当じゃないかもしれない家族”の存在があるからこそ浮かぶ疑問ですよね。一緒に住んでいたら家族?血がつながっていたら家族?尽くしてくれる人が家族?私もわかりませんが、優子がなぜグレることもなく育つのか、そのヒントみたいなものが本の中であちこちに散らばっています。

子どもに読ませて

「もしも、優先順位をつけなければいけないのなら、正しい順に並べるべきだ。それなら、たとえ自分の選択に悲しくなることがあったとしても、間違いだったと後悔することはない。」(本文より引用)

これが大人の言葉ではなく、思春期真っ盛りの女の子の思考なのだからハッとさせられます。一番大切にしなければいけないもの、失ってはいけないものをすでに知っている言葉です。できれば子どもに読んでほしい!小学生高学年から大人まで共感しやすく、読み進めやすい本。ではあるけど、大人も心を揺さぶられる傑作です。読書感想文にも向いているんじゃないかな。個人的に印象的だったページに付箋を貼っていくと、20枚使いましたよ。多ければいいという問題でもないのですが、少なくとも付箋が1枚も貼られない本では感想文は書けませんよね。

トンカツ用のお肉を用意しろ

森宮さんが”娘”にカツ丼を作ってあげるシーンがあります。その他にも色々と、頑張って美味しいものを食べさせようとしてきます。私はこの本を読み終えてから無性にカツ丼を作りたくなり、晩ごはんはトンカツにしました。(カツ丼じゃないんかい)
シンプルに、誰かのために何かを作りたいと思えることは正義だ。そう思えるお話です。

さいごに

この本は2019年の本屋大賞に輝いた作品なので、本に興味がない方でもこの表紙を見かけたことがあるかもしれません。芥川賞や直木賞などの著名な受賞作品ももちろん素敵なのですが、個人的には全国の書店員さんが選ぶ、この「本屋大賞」の方が読みやすく、読者層を選ばない気がします。この本に関しては、タイトルになぞらえて次の読者へ「バトンを繋がなくては」という書店員さんのコメントが多かったです。私も、読んだことがない方へのアプローチができればと思いました。ぜひ、手に取ってみてくださいね。


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