「本を読みたいけど本屋さんに行ってもどれを選んだらいいのかわからない」という方におすすめの本を紹介します。今回は辻村深月(つじむらみつき)さんの『スロウハイツの神様』。私も、辻村ワールドの中毒性にハマったひとりです。
辻村深月の作風とジャンル
大枠ではミステリーに分類されますが、作品によって本格ミステリー、青春、恋愛、サスペンスなども盛り込まれ、多彩です。ただ共通するのは、人間の心情をこれでもかと徹底的に解剖して見せてくれる潔さでしょうか。え、ここまで覗いちゃっていいの?と思うほどに、人に見せたくない醜さ、執着心、劣等感、名の付けようがない感情さえも丸裸にされます。まるで自分のことを言い当てられているような錯覚を起こし、気づかないレベルでゆっくりと登場人物に同化してしまう過程は怖くもあり、同時に強く惹かれることでしょう。フェイクだとわかっているのにリアルな感動を味わわせてもらえる素敵な作家さんのひとりです。
読む順番がカギ!辻村深月ワールド
本書を新書で手にとるとまず、帯の「この順番で読むべし!」の文字が目に入ります。各作品のタイトルとともに読み順が紹介されており、続編?番外編?があるのかな、なんて最初は思いましたが、実際に読み進めるとそんな生ぬるいものではないと思い知ります。順序というよりも、”シリーズ全体を通して散りばめられた伏線を、ひとつも取りこぼさず回収するための通路”と言えます。ロードマップに近いのかな、順番通りに読むことによって登場人物が形成し、謎だった箇所が明らかになっていく、といった感じです。
そもそも辻村さんの作品は単体でも完結しており、ひとつひとつが素敵です。1作読み終えたときには心をグシャっと潰され、そこから再生するときのカタルシスといったら!これだけでも読み応えが大きいのですが、リンクした別の作品を読んだとき訪れる、更なるカタルシス第2波。これを一度味わったらもう、辻村ワールドの虜になるでしょう。私は初め図書館で借りたのですが、本を返却後、また読むためにシリーズで買い揃えてしまったほどです。
ただ、作風やジャンルの好みで合う合わないがあるので、まずは『スロウハイツの神様』を読んでみると辻村作品がわかると思いますよ。
『スロウハイツの神様』を読んだら、次は『凍りのくじら』がおすすめです。
実はこの『凍りのくじら』はスロウハイツより先に読む方が、時系列的にも登場人物的にも合っています。ただ、『凍りのくじら』はドラえもんのオマージュとも呼ばれ、ドラえもん好きの辻村さんのマニアックさがモロに出ている作品です。普段そんなに読書をしない人でも抵抗なく読みやすい、導入しやすい順番としては『スロウハイツの神様』を最初に、『凍りのくじら』を2番目、で良いと思います。
そのあとは、私が特におすすめしたい3作品を紹介します。『ぼくのメジャースプーン』と『名前探しの放課後』だけは順序を守らないと意味がわからなくなるのですが、それ以外は順序を気にしなくてもいいかなと私は思います。図書館だと全巻揃っていない場合もありますしね、ただ、どれも傑作なのでぜひ読んでほしいです。
辻村深月の小説は子どもに読ませていいのか?
本はインターネットと違ってフィルタリングが効かないので判断が難しいですよね。今回ご紹介した本は文章的には読みやすく、特に思春期の子は共感しやすいと思います。本が好きな小学生高学年の子なら、多少漢字がわからなくても読めますし、そういう意味では年齢問わず楽しめます。
ただ『子どもたちは夜と遊ぶ』では性的、暴力的な表現なども多く含まれるので、中学生以上、またはご家庭で判断した方が良いかな、と思います。とはいっても今の時代、子どもといえど社会問題を知っておくことは必要ですし、表現は純粋でストレートなので私は害はないと思います。それよりも心に受ける感動や衝撃、文学としての美しさを大事に伝えてあげられる作品です。
さいごに
ご紹介した作品は、最初からテンポよくポンポン展開する話ではなく、じっくりと時間をかけて吸い込まれるような作品です。サクッと読んでパァッと明るくなりたいわ!というときにはちょっと疲れるかもしれません。どちらかというと、物事がうまくいかず気分が沈んだ時の方が私は面白く読めます。バッグに忍ばせて休憩時間に読んだり、ひとり時間の時にぜひ読んでみてください。
上下巻で分かれているものは特に、下巻または後半から一気に伏線回収しだすので、知らず知らずのうちに自分がジェットコースターに乗せられていたことに気づきます。気づいてもすでに遅いんですけどね、加速が止まらないので電車の待ち時間に読むと乗り過ごしますし、寝る前に読むと寝坊します。読み終わり、余韻と重力に慣れた頃にやっと、今目の前にある問題に対してクリーンな気持ちで対峙できるというか、色んな感情が発散できたような感じに私はなります。そして大好きな本になりました。これを機に手にとっていただければ幸いです。